前回、認定医療法人制度改革についてその概要、全体像について解説しましたが今回はその各論についてです。
持分なし移行にあたっては厚生労働省の認定を受ける必要があり、その認定といういわばお墨付きをもらうことで医療法人への贈与税が回避されることとなることから認定要件についての詳細に関して正しい認識が必要となります。
第1次の認定制度で申請が進まなかった最大の理由として同族親族役員等を3分の1以下とする要件があり、今回の新たな認定制度においてこの要件が外れたことが大きな改正点となりました。
ただし、その他の要件については前回と変更点はなく、特に多くの持ち分あり医療法人にとって最も困難な要件として「法人関係者に対し、特別の利益を与えないこと」が挙げられます。
その例として多くの医療法人では理事長たる役員医師の社宅があるケースが見受けられますがこの場合、他の従業員社宅があるとすると賃料が同等でなければならず、社宅の場所についても、クリニックの近隣にあるといった場合は緊急時の対応のためといった大義名分がありますが、例えば埼玉にクリニックがありながら社宅が都内の高級住宅地にあるといった場合、認定をうけることは非常に困難な状況となります。この場合、理事長個人に売却するといったことを検討する必要があります。
今までの医療法においては法人と役員の間における不動産の売買については特別代理人の選任及び不動産鑑定士による鑑定が必須条件でしたが、平成30年10月よりこれらの手続きが不要になったことから売却するといったオプションは使いやすくなりました。
その他では「役員報酬について不当に高額にならないように定める」ことについては、特定医療法人の要件が年間報酬額が3600万円以下となっておりそれ以下であれば問題なさそうですが、それ以上だとしても不当に高額かどうかというと悩ましいところです。
遊休財産が事業費用の額を超えてはならないという要件も意外と厄介かもしれません。通常それなりの年数にわたりクリニックを経営してきた場合内部留保が潤沢になっているケースも多く使途が特定されていない預金及び未収の保険診療報酬も遊休財産に該当することから年間の事業費用くらい超えてしまう内部留保があってもおかしくありません。
ただし、この場合は減価償却引当特定預金といって通常の預金の一部の使途を帳簿上特定させることで遊休財産から外すことが可能となりますので検討する余地はありそうです。
認定申請期限まで残すところ1年弱となりましたが、当然のことながら必ずしも持ち分なしへ移行することがドクター一族及びその医療法人にとっての最良の相続対策になるとは限りません。現在の株価を注視しながら出資持分を相続財産に含めることが得策な場合もあるかと思いますので十分に検討してから判断されることが求められます。
埼玉本部 菅 琢嗣