平成29年12月14日自民党・公明党が決定した平成30年度税制改正大綱では、事業承継税制について、① 猶予対象の株式制限(総株式数の3分の2)の撤廃, ② 納税猶予割合の引き上げ(80%から100%へ)、③ 雇用確保要件の弾力化(事実上の撤廃 )、④ 最大3人の後継者に対する贈与・相続への対処拡大 など抜本的な拡充が明記されました。
経営者の高齢化が進む中、中小企業の事業承継の円滑化は「待ったなし」の課題である!といわれ続けていましたが、遅々と進んでいないのが現状だと、現場にいて常々感じていました。今後10年間で廃業が急増し、累計で約650万人の雇用と約22兆円のGDPが失われる可能性があるとの調査結果があるそうです。
事業承継税制とは、後継者である相続人や対象株式の受贈者が、相続や贈与により一定の非上場株式を先代経営者である被相続人や贈与者から取得し、その会社を経営していく場合には、その納付すべき相続税や贈与税のうち、一定の部分の納税が猶予又は免除されるというものです。
この事業承継税制は、平成13年中小企業庁「事業承継税制研究会」発足より、平成16年中小企業庁事業環境部財務課「事業承継関連法制等研究会」発足、平成20年5月「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」(経営承継円滑化法)成立・平成20年10月1日(民法特例は平成21年3月1日)施行、平成21年4月「非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予制度(事業承継税制)創設、平成25年度事業承継税制改正(原則平成27年1月1日から施行)、平成29年度事業承継税制改正(平成29年1月遡及適用開始)と歩んできました。
ここで、平成25年度事業承継税制改正と平成29年度事業承継税制改正をもう少し詳細に見てみます。(出所 東京商工会議所「平成30年度税制改正に関する意見(事業承継)」
【平成25年度事業承継税制改正】
① 事前確認の廃止
経済産業大臣の「事前確認」を受けなくても制度利用が可能に(平成25年4月~)
② 親族外承継の対象化
親族に限定されていた後継者を親族外でも適用可能に
③ 雇用8割維持要件の緩和
「5年間毎年維持」とされていた雇用8割維持要件を「5年間平均」に緩和
④ 役員退任要件の緩和
贈与時に「役員を退任」することとされていたのを「代表者退任」(有休役員として残留可)に緩和
⑤ 納税猶予打ち切りリスクの緩和
利子税率の引き下げ(2.1%→0.9%)(平成26年1月~)
承継期間5年超で、5年間の利子税免除
⑥ 債務控除方式の変更
現経営者の個人債務・葬式費用を株式以外の相続財産から控除
【平成29年度事業承継税制改正】
① 贈与税の納税猶予が取り消された場合の負担軽減措置
生前贈与した場合に納税猶予が取り消された場合の納税額を相続税と同額とする仕組み(相続時精算課税制度)の導入
② 贈与税の納税猶予制度適用におけるインセンティブの創設
非上場株式の贈与者が死亡した場合の相続税の納税猶予制度における認定相続承継会社の要件について、中小企業者であること及びその会社の株式等が非上場会社に該当することする要件を撤廃する。
③ 雇用要件のセーフティーネット規定の創設
災害や経営環境の激変時における雇用維持要件の困難化に対応するためのセーフティーネット規定を創設
④ 小規模企業を中止にした雇用要件の緩和
雇用要件8割の基準となる従業員の端数切り捨てにより、従業員5人未満の企業の従業員が1人減った場合でも適用を受けられるように緩和
上記2回の改正は、なかなか進まない事業承継について、要件の「緩和」「撤廃」の流れになっていて、そのことから、政府の相当深刻な危機感が感じられます。特に平成29年度改正は、個人的には「これ以上の緩和はしばらくないのでは」と思う位インパクトのあるものでした。
そこへ今回の平成30年度改正です。本改正は10年間の特例措置として創設されるものであり、現行の29年改正版事業承継税制との両立となるのですが、明らかに今回創設されるものの方が納税者に有利なものとなっています。法制定後、改めて制度内容を熟知し、非上場株式等に係る贈与税・相続税の負担がとても大きいと試算されていた後継者の方々に、是非適用を提案したいと考えます。
最後に、納税猶予又は免除により後継者の方にとっては是非使いたい制度ですが、後継者以外の相続人の方々の遺留分等の権利については、一定の配慮が必要と考えます。
東京本部 根生隆行